中規模程度の企業の基幹業務もオープン系になって久しく、大規模なスクラッチ開発も感覚的に少なくなってきた。あるいは横ばい状態だ。 (ちゃんとしたデータは見てないが)
そんな環境において、SIer の下請けの受託開発や、開発力の提供として派遣に従事してきた弱小開発会社は、今後どのように生き残っていくべきなのか。
20代のころはフリーランスの開発者・設計者として色々な SIer で多数のプロジェクトに関わり、数多の中小開発会社を見てきた立場から、その辺りをマーケティングの基本に沿って考えてみたい。(つーか今いる会社が潰れないように)
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よくある弱小開発会社の問題点
1. 開発力がショボイ
まぁショボイ。
ショボイ故に弱小開発会社なのか、弱小開発会社だからショボイのか。あるいはその両方か。
SIer も大抵実際の開発力に乏しいが、弱小開発会社はその上(下?)を行く。
何故開発力がショボイのかといえば、組織の中に開発が好きな人間(拘る人間)が絶対的に少ないからだ。
というのも、開発が本当に好きな人間や、リスクをとって新しいことにチャレンジする人間は、SIer の下請けや派遣の立場であることに早々に飽きるか嫌気が差してしまい、ベンチャー系への転職や起業独立する事が多い。そんな中で組織に残るのは、仕事内容にそれほど拘りがなく、「作業してお金が貰えれば良い」という人間ばかりとなってきて、より一層スキルが高い人間の負荷が上がってその人は退社する、という悪循環がある。
結果として開発力が低い組織ができあがりだ。
本来、SIer は下請け会社に開発力を求めている部分もあるのに、その求められている価値を提供できないのは大変大きな問題である。
2. 人が育たない(あるいは育てられない)
1. に関連することだが、組織に残る中堅以上の人間のスキルは低い方へ収斂されていくので、後続の人間を育てるための土壌も当然ない。
未だにプログラムといえばレガシー(ひとつのモジュールで、リクエストを受け付け、フローによりロジックを処理し、DBにアクセスし、ビューを返す、みたいなのを沢山作り出すような)であり、設計手法・開発手法は偏っており、派遣先でしか通用しないような知識しかなければ、当たり前だが人を育てることなど出来ない。
しかし、上の人間や当の本人(組織に残っている中堅)たちは「育ててもわからない奴はわからない。延びる奴はほっといても延びる」を結論として、「人を育てる」ということを諦めていく。
3. 元請け SIer への依存度が超高い
独自開発力の無さから、SIer から詳細工程からの下請けや、派遣作業を行ってきたので、これまた当然ながら SIer への依存度が極端に高い。
この構造は、IT系の投資が盛んな時期には割と安定した売上が見込めるが、そうでない場合あっさりと切り捨てられるという、自身のコントロールが及びにくい、元請け会社の腹積もりひとつですぐに露頭に迷うリスクがある。
それに加えて「開発力」だけみれば、オフショアやニアショアやその他弱小企業がひしめき合って競合している。それに最近では「そもそも「開発」すること自体がナンセンス」である」ということから、情報技術によりそれを解決しようという風潮もあって、ますます「スクラッチ開発」する相対的価値は低下している。
弱小開発会社としての提供できる価値
ざっくりと弱小開発会社の問題点を挙げてみたが、まだまだ構造的に問題は沢山ある。
そんな中で、弱小開発会社として今後どのように勝ち残って行くべきだろうか。
以下の本によると、マーケティングの超基本的なことは5つに集約される。
新人OL、つぶれかけの会社をまかされる (青春新書PLAYBOOKS) 佐藤義典 青春出版社 2010-09-29
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- ベネフィット(お客にとっての価値)
- セグメンテーションとターゲッティング(価値による括り)
- 強み・差別化(競合との価値の違い)
- 4P(価値の実現)
- 想い(社会への貢献)
一つ一つ順を追って検討するつもりはないが、上記を念頭に何ができるか検討してみよう。
元請け SIer との関係強化
SIer への依存について問題点として挙げたが、「死なばもろとも」という覚悟で SIer と蜜月の関係を築くことにより、リスクをヘッジする方法が考えられる。
この場合のお客はもちろん SIer だ。
メーカー系子会社の担当者の多くは、下請けに「まるなげできるところ」という価値を求めている事が多い(それが良いとか悪いとかではない。寧ろ個人的価値観では悪い)。そのお客にとってのベネフィットを最大限に活かすようにする。
具体的には、社内のエース級の設計者開発者を送り込み、その部署が担当しているシステムの中核を抑える。そして他の競合に負けないように、SIer の影響力のある営業マンや、部長・課長などに対して本社側からもアプローチし、「この下請け会社に任せておけば安心」という信頼を得ることができれば成功だ。(一番よくないのは、マンパワーが必要なときにプログラマだけ派遣する方法)
先ほど紹介した本 には、「商品軸・手軽軸・密着軸」としてのアプローチ方法があるとされるが、まさに「SIer へ密着型で価値を提供」することで、多少派遣社員が絞られる環境になっても、優先的に残してくれる事が多い。
ただし、本当のエンドユーザーの予算が絞られすぎたり、システム更改のコンペに負けたりした場合は、わりとあっさり切られることもあるし、そもそもあんまり(というか全然)面白くないのでおすすめではない。
独自 Web Service や Mobile Service 対応
もともと「開発力がない」という問題点から、この手段はなかなか取りづらいだろうが、「脱 SIer」するためには、方法のひとつとして考えたくなる案だ。全ての収益をここから上げる必要はないが、依存度を下げるという意味でも検討する価値がある。
日本は企業のクラウド化やビッグデータの活用がまだまだ遅れているし、今からでも充分に利益を上げることが可能だ。この手段を取る場合、まず自社にどういう強みがあるのか真剣に議論すべきだろう。そして、その強みに関連する見込み客を想定し、具体的な価値でお客をセグメンテーションして、ターゲットを絞り込んでいく。
この場合の客とは、不特定多数だけではなく、特定の業種業態への価値提供でも良いだろうし、NPO やアカデミックな分野や公共系に話を持ちかけても良いかもしれない。
この手段の問題点は、「誰も(特に経営者や年食ったおっさん)、そんなモチベーションがなければリスクをとるつもりもない」という、最大にして最強に変えがたい空気が蔓延している可能性が高いということだ。そんな社風を変える努力はわりと大変である。
パッケージカスタマイズやSaaS/Paas/IaaSなどの導入支援
趣きはかなり変わるが、既存パッケージやサービスを担いで「開発力のなさ」を解決するという方法もある。
この場合必要になってくるのは、広い意味での営業力だ。今まで曲がりなりにも開発作業をしてきたということは、その他の業種の中小企業にとっては「かなり情報システムに詳しい」部類と見えるので、それはそのまま強みに転換される事となり、強みを探す手間が省けて手っ取り早い。
あとはその強みを活かして、エンドユーザー企業に情報技術をビジネスへ転換することのベネフィットさえ伝えることが出来たなら成功だ。
と、簡単に書いたが、「広い意味での営業」に関してはほとんど素人同然という人が多いだろうから、最初のキッカケづくりや実績作りが難しいだろうというのが難点だ。
最後に
いくつか弱小開発会社が今後も生き残っていくための方法を検討してみたが、何をするにも一筋縄ではいかないのは確かだ。
自分が(または自分の所属する組織が)、今後どのようにして世の中へ価値を提供していくのか?ということを真剣に考えなければ、(特に単価の高い日本の)弱小開発会社は、近い将来淘汰されてしまうのではなかろうかと考える。
とは言うものの、個人が生き残っていくのはまだそれほど難しい状態ではないので、淘汰されるべき会社はさっさと淘汰されてしまえばいい、ってのもあるけどね。