”ヘン”なオヤジのもとで働きたいか、働きたくないか - suVeneのアレ

”ヘン”なオヤジのもとで働きたいか、働きたくないか

山田 昭男 ぱる出版 2011-11
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by ヨメレバ

たしかにこのオヤジは”ヘン”である。

しかしそれは、「横並びの社会」において突出しているという意味で”ヘン”なのであり、客観的に見ればかなり合理的な人であると思う。

それは、「ホウレンソウ禁止!」のような決まりにおいても、如実に表れている。

いちもにもなく「差別化」を目指せ!

このオヤジいわく、ものを売るには全てにおいて「差別化」が重要であるという。まぁ、そこまではよくある話だ。このオヤジでなくても言える。というか、おれでも言える。

しかし、この社長の場合は一味違う。その差別化したもの、すること、に対して、「ヨイ」「ワルイ」などは考えさせない兎にも角にも「差別化すること」が重要なのだ。そこに企業としての目的はない。いや、手段を目的化させているといってもよい。正確にはこの社長の中には戦略が存在するのだが、働いている社員には少なくともそういうことを考えさせない。「差別化」を強制することによって、社員自らが考えることを強制しているのだ。

そのため、未来工業には「改善提案制度」がある。
…中略…
しかし、うちは、何をするにもよそと差別化する方針だから、「提案書を出したら封を切る前に500円を支給する」ことにした。

日本一社員がしあわせな会社のヘンな“きまり” – P19

社長の戦略と小さなテスト

社員は「差別化」し「考える」ことを主たる目的とし、それを戦術とされている。ではこの社長は何をしているのか?社員と一緒になって現場で頑張っているのか。

そうではない。

社長の仕事は、「餅」という表現で例えられた、社員に対するご褒美を用意することである。この社長は人心掌握術にとても長けている。いかに労働者が「自ら進んで利益を出そうとするか」を必死で考えている。それこそがこの社長の、会社の、戦略の要なのだ。

細かな戦術のことは社員に任せてある。なんせ、社長が知らない間に事業所や支店が 10 も 20 もできてしまう会社だ。なので、きっと社長はヒマだ。どうやったら社員が喜んで仕事するかということばっかりを考えている。

重要なのは考えることだけではない。小さくテストすることだ。つまり行動してみることである。「ダメなら元に戻せばいい」と社長は言う。これには全く同意する。「前例がない」ことは、正しい証明にはならない。むしろ、儲ってない要因ですらあるかもしれない。そのパラメーターの相関や因果を調べるために、一つ一つ小さくテストするのだ。こんなことは考えていてもわからない。実験してみるよりほかはない。

休日は年間140日、年末年始は20日連休、お客に怒られてもやる

日本一社員がしあわせな会社のヘンな“きまり” – P79

信頼か?コスパか?いや、信頼だ

この社長は、一見すると性善説に基づき、社員を信頼しているかのように見える。それは、以下のような例を見ても明らかだろう。

  • 「改善提案制度」は出すだけで500円。中身は○でも☓でもよい。
  • 5人集まって会社に申請さえすれば、クラブ活動として認められ、1万/月 の補助金が出る。
  • 社員食堂は自己申告制。20回食っても、1回と申告しても誰もチェックしない。

などなど。

しかし社長はこういう。

世間では「山田は性善説だから……」と言う。
しかし、そんなことはない。
おれは社員は経営者を騙すものだ、と思っている。
騙すものと思っているからこそ、自由にさせているんだ。
どんどん騙していいぞ。
そうされると、人間は、却って不正ができないんだよ。

日本一社員がしあわせな会社のヘンな“きまり” – P163

ここだけ読むとものすごく打算的だ。なんかとってもやなやつだ。

ほかにも、一見信頼しているように見える”きまり”も、実は検証するためのコストと、得られるメリットを比較し、あえてリスクをとっている(自由にさせている)ということは、再三述べられている。門に守衛さんを置かないのも、アコムなどに入っていないのもそのためだという。

では、社長はそのような打算でのみ物事を考え、社員と接しているのだろうか。

いや、きっとそうではないだろう。この本でしか社長を知らないが、きっとこの人は社員のことを信頼しているように思う。というより、自分以外の人間を信頼することに慣れている。そうでなければ、社員は自分が道具のように打算的に扱う人について行くこともなければ、「しあわせ」を感じることもないだろうからである。

さいごに

べつに、このオヤジのもとで働きたい訳ではない。わがままそうなオヤジでめんどくさそうだし、全員参加の社員旅行とかめんどくさそうだし。

ただ、総合的に見ておもしろそうだな、と思うのも事実だ。そしてこの社長は、「昔の人」なのに、今時のリーダーシップに必要な能力を持っており、またそれを実践している人物ではないかと感じた。それは、「熱血漢」「根性論」のような「おれについてこいタイプ」ではなく、社員とは別のところで問題を認識し、素早い判断と決断で空気を読まないタイプだということだ。つまりメタ認知能力がすこぶる高いということだ。

多角的視野を得るために、刺激になるだろう一冊かもしれない。

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