おれは「彼」を殺した - suVeneのアレ

おれは「彼」を殺した

おれは「彼」を殺した。殺してしまった。死に追いやった。「彼」が死を選択するストーリーを構成した。逃げ道を用意しなかった。脇道を作れる立場にいながらにして。気づけなかった。あの頃は、自分もまた暗闇の崖っぷちを歩いていた。周りのみんなもそうだった。誰もが自分の足元が掬われないか必死だった。そんな時に「彼」は死んでしまった。その報せを聞いた、ほんの数日前まで目の前に座っていた「彼」は死んでしまった。おれはそれに気づけなかった。何も気づかなかった。気づこうともしていなかった。おれの目から見て、「唐突」に死んでしまった。気づいたらいなかった。振り返ればいなかった。次の日もいなかった。その次の日もいなかった。そして今もいない。

わかっている。こうやって罪の意識を背負うことで、自らが救われようとしているということは。または、こうやって罪の意識を背負うことで、周りから慰みを受けたいと願っているということは。なんて嫌らしい下種な精神。人の死を踏み台にして。

「あなたの責任ではありません」

わかっている。おれだけの責任ではありえない。かと言って、誰かの責任でもありえない。いうなれば「彼」も含めた「みんな」の責任だ。「みんな」の責任とはなんだ?それは誰も責任をとらないということだ。そもそも「彼」に対しては責任の取りようはもうない。既にここにはいないのだから。

おれの目から見て「唐突」だった現実は、「彼」にとってはいつから始まっていたのだろうか。もう随分前からリアルな選択だったのだろうか。それともまた「彼」にとっても「唐突」だったのだろうか。何故死を選択したのか。そうせざるを得なかったのか。何故なのか。何故なんだ。何故なんだろう。あの日からずっと考えているがわからない。わかるはずもない。わかるわけがない。「彼」もまたわからなかったのかもしれない。

おれは「彼」の何を知っているのか。何も知らない。なのにおれが殺したとはどのような了見か。何故そんなことが言えるのか。おれは「彼」の何を知っている。何も知らない。知らないままに「彼」はいなくなった。なのに「おれは「彼」を殺した」なんてのは、身の程知らずの思いあがりだ。

おれはいったいどうしたいのか。おれはただ謝りたい。「彼」の周りの人に謝りたい。謝る資格はないが、謝りたい。謝る資格はないが、それでも謝りたい、赦されたい。「彼」に関わった全ての人に謝りたい。「彼」自身に謝りたい。そして同時に殴ってやりたい。バカヤローと言ってやりたい。ふざけんなといってやりたい。ごめんなさい。ごめんなさい。気づいてあげられなくてごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。守ってあげられなくてごめんなさい。そしてバカヤロー、ふざけんな。お前のことは一生忘れない。

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