悲しみや苦しみと共に生きるということ

一つの仮説に至った。

そこまでの経過を記載するのは、まるで自分の恥を公開するようだが、何だか書き記して公言しておいたほうがよい気がするのでそうする。

結論から言えば、「忘れられない悲しみは忘れずに、辛い時は辛いこととして、その感情に身を委ねる」ということだ。似たような言葉を聞いたとき、気休めのような感覚で受け取っていた。しかし、よく考えればこの言葉には自分にとって、深い意味があることに気づいた。「あきらめ」と似ているが、少し異なる。それは、「自分の感情を承認する。認める。受け入れる。共に過ごす」ということだと思う。そして、その負の感情に、自己に、「執着」しないということが重要なのだ。

自分にとって「生きる」ということは、いつの頃からか、「苦しみを我慢すること」だった。

そしてきっと今でもそうだ。なので、常に「救い」を求めていた。きっと何らかの「救われる方法」があるはずだと信じていたし、過去から連綿と続く現在までの境遇を呪ったり、そうでない周りの人を恨んだり、羨望の眼差しで見たり、時には自分に活用できる視点のヒントを得ようとしてきた。そんな自分の弱さ故に、酒が好きならばアルコール依存症になっていただろうし、賭け事が好きならギャンブル依存症になっていただろうし、運が悪ければドラッグ依存症になっていただろうし、あるいは宗教にのめり込んでいたかもしれない。

しかしおれは、酒はあまり飲まなかったし、ギャンブルのような予め理屈で考えて負けることが確定しているようなことが嫌いだったし、ドラッグで健康と理性を失う勇気もなかったし、あいにく信心深くもなかった。

そして結局何に依存したのか。それはきっと「自己」に依存したのだ。「かわいそうな自分、つらい自分」に執着したのである。ネガティブなナルシストのようなものだ。

「自己執着」というのは、大抵ろくな事にならない。俗に言われる「メンヘラ」「かまってちゃん」のような言動は取らなかった(取れなかった)が、根は似たようなものだと思う。「自己執着」すると、相手のことが見えにくくなる。自分の弱点や能力を悲観し、現実と苦しみのない理想とのギャップに挟まれ、感情を理性でコントロールしようと努力をする。しかし、取り払えない苦痛や、救われない(救ってくれない)現実、コントロール出来ない感情に、生きる気力は削がれ、再び自己の深淵を覗きこみ、孤独のうちに絶望するのだ。

しかし、これらは間違った方向の努力なのだと思う。エネルギーは意識した方へ向かう。おれはおれ自身の苦しみを意識し、悲観し、解決しようとすることで、負のスパイラルを形成し確固たるものにする。それはまるで、雨空に向かって、雨が降っていることを嘆き苦しみ、天に祈りを捧げ続け、それでもなお太陽が顔を出さないことに打ちひしがれているようだ。雨粒が体を濡らす不快な感情をコントロールしようとすることで、より一層雨粒が気になり、それにより、二重三重の不快が想起されていくのである。

なんと滑稽なのだろうか。

従って、おれがとるべき態度とは、雨がやまないことを嘆くことではない。冒頭に書き記したように、雨が降っている状況を認め、受け入れ、その中で自分が今できることをするということだ。例えば、傘をさして凌ぐ。例えば、全身を雨にさらし「その状況」の一部になる。きっと不快な感情は今後も消えないだろうが、負の感情について「苦悩すること」を止めるのである。

百万回生きた時に、百万回悲しみや苦しみを肯定できるように。